グランド興業株式会社、福田浩明社長 TOPから学ぶ
きっかけは1人のスタッフ
グランド興業株式会社は「ともに、より豊かな社会をつくる」という企業理念を掲げている。これは福田氏が代表取締役社長就任後に創られたものである。
「私が社長に就任した当時は、企業理念がなくて、人材育成にもまだそれ程力を入れていませんでした。人材育成に力を入れようと改めて考えるようになったのは、ある女性スタッフとの出会いですね。彼女は白血病を患っていて、OMEGAで働きながら入退院を何度か繰り返していました。そんな彼女があるとき『病気になってよかったことがある』と言っていたんですね。当時、すでに余命は残り少ないだろうと本人も周りもわかっている状況でした。
彼女が言うには、病気になったからこそ一緒に働く仲間の大切さや、店舗に来てくださるお客様と接することの楽しさと感謝をより一層感じられたそうなのです。病室にお見舞いに行くと、店舗での写真などがたくさん飾られていて、『早くまたみんなと一緒に働きたい』と言っていました。こんな風に私たちの会社での仕事を通してやりがいや喜び、そして生きがいを感じてくれている人がいるということに、心動かされました。経営者として、みんなが仕事にやりがいを感じ、働くことに喜びを感じられるような企業でありたいと考えるようになり、人材育成により一層力を入れるようになりました。だから彼女は、グランドグループの歴史を変えた人物ですね」
こうして、人材育成に力を入れるようになったグランドグループでは、様々な取り組みが行われるようになった。その中でも最も大切にしているのが「WOWストーリー」だという。
最も大切にしている「WOWストーリー」
WOWストーリーは、リッツ・カールトンで行われている取り組みから着想を得ている。リッツ・カールトンでは、毎朝WOWストーリーの紹介が行われている。これは「昨日、あなたはお客さまに大変満足していただけましたか?」という問いかけに対し、「感動を提供した」社員がみんなの前でそのストーリーを報告するものである。
グランドグループで行われているWOWストーリーとは「お客様と、そして仲間との間に自らが行動することで生まれた素敵なできごと」、アルバイトから社員まで全員が感動のストーリーを作文にする。その数は毎月100通以上にもなる。その中から最も共感を得たストーリーを褒め合い、投票をする選考会が毎月行われる。選考会の会場となる店舗、参加メンバーは毎月変わる。参加者は自由参加で、そこに本部社員や福田氏を入れて計15名以上になり感動あり涙ありで大変盛り上がるという。
参加者は事前にWOWストーリーを読み、自分が共感したストーリーを推薦する理由をプレゼンする。プレゼンされた中から、報告会参加者の投票によって優秀賞が決定される。
WOWストーリー選考会の様子
「毎月感動するストーリーがたくさんありますよ。印象に残っている中のひとつは、常連のお客様とのストーリーです。ある日、中年の女性が店舗の事務所に来られて、店長に『少しだけ駐車場に車を停めさせてほしい』とおっしゃったそうです。店長が駐車場に見に行ったら、霊柩車だったんですね。
その女性に話を聞いたら、亡くなったのは常連のお客様でした。生前よく『死ぬまでOMEGAに行く。死んでも行く』と言っていたのをご遺族の方が覚えていて、火葬場に行く前に遺影を持って店に寄ってくださったのだそうです。スタッフのみんなもそのお客様とは親しかったので、とても哀しんでいましたが、そんな風に言ってくださっていたことにとても感謝の気持ちを持っていましたね」
WOWストーリーの変化
グランドグループで最も大切にされているという「WOWストーリー」。ここ数年で共有されるWOWストーリーの内容に変化が現れ始めているという。「WOWストーリーは、仲間とお客様の2つのカテゴリーに分けているのですが、3年程前までは仲間とのWOWストーリーが多かったです。
たとえば、自分がこれをしようと考えていたことを仲間に伝える前に、仲間がすでに準備してくれていた、などです。ですが、ここ最近はお客様とのエピソードが増えてきました。これはいい傾向だと思います。
WOWストーリーが蓄積されていくことで、どういった行動をすればWOWストーリーが生み出されるのかが共有できているのではないかと感じます。
発信する内容によって、社員の意識も変わるのだなと私自身実感しました」
WOWストーリー選考会の様子
今は手間をかけることが大切
グランドグループでは、WOWストーリーの他、福田氏がFacebookで発信する社長通信による社員とのコミュニケーションも大切にしている。「毎週月曜日に社員のみが閲覧できるFacebookグループで社長通信を発信しています。最初は毎日更新していたのですが、なかなか難しくて。続けられる頻度でなければ意味がないなと感じて今は週に1回にしています。
始めた当初はあまりレスポンスがなくて悩んでいました。それを幹部に相談していたのですが、幹部の方から社内のコミュニケーションは大切だから、社長通信も読んで自分の意見を発信しようと社員に伝えてくれて、今は毎回30件程返信が来るようになりました。
例えば私が「人と信頼関係を築くことは大切です。みなさんは信頼関係を築いたことでどんなことが得られると思いますか?」といった問いかけをすると、みんなそれぞれの考えを返信してくれます。コメントを読んで返信するのは大変ですが、社員と直接コミュニケーションが取れますし、社員の意見に対し現場に出向いた時に直接承認する機会になるので、とても大切にしています。
価値観を共有する場があると、それが社内の共通の価値観になってきて、みんなの向いている方向性が同じになってきているように感じます。私が代表取締役に就任した当時、企業理念を創ったのですが、同じ方向性を向いている仲間と働きたいという想いからでした。今、それが徐々に実現できているなと感じます。
福田氏がFacebookの社内グループで発信している社長通信
パチンコ業界は様々な外的要因もあって決して楽ではないです。競争も激しくなってきています。WOWストーリーの共有や、Facebookでの社内コミュニケーションなど、ひとつひとつ、手間はかかりますが、今の時代はこういった手間をかけることが大切になってきているのではないかと思います。誰もが簡単にできないことを、コツコツやることが、他社との差別化になり、自社の強みになっていくのではないかと感じています。
幼少期に教えられたこと
あえて手間のかかることをやる。実はそれらは会長の教えでもあると言う。
「以前のインタビューでもお話しましたが、私はもともとパチンコによいイメージを持っていませんでした。後を継ぐつもりもなかったのですが、結局は継ぐことになりました。入社してからは父がトップで、私はNo.2の時期が長く、反発することもありました。自分がトップになってからは自分のやりたいようにしようと考えていましたが、よくよく考えてみると父から教わったことをやっている自分に気づきました。
手間がかかることをコツコツやることで得られるものの大きさも父から学んだことです。若い頃はわからなかったことも、自分がトップになってみるとわかることもあり、父から学んだことを活かしているのだな、と感じて感謝の気持ちを以前よりさらに持つようになりました」
ルールがあるからこそ、楽しんでもらえる
以前のインタビューでも「パチンコはアンダーグラウンドでいい」と語っていた福田氏。そこにはパチンコへの想いが込められている。
「小さい頃はパチンコが嫌いでした。当時は店舗の二階が自宅でした。私が小さい頃、母は私をカウンターの中に座らせて仕事をしていました。ずっと庭があるような普通の家にあこがれていましたね。
私の祖母はパチンコが好きで、晩年はずっとパチンコをしていました。夕飯になっても帰ってこないからよく迎えに行きました。
私が行くと『あんたも打ちな』って私を台に座らせて、隣のおばさんの玉を取って私に渡すんですよ。そんなことしていいの?って聞いたら『いつも私がやっとるからいい』って言っていましたね(笑)。
そんな祖母はよく、パチンコをすると嫌なことを忘れられると言っていました。それが当時は嫌でした。忘れたい程嫌なことがあるのか、と思ったし、パチンコって嫌なことを忘れに行くようなところなんだ、と思いました。
でも今思えば生きていれば嫌なこともたくさんあるし、ストレスを発散する場が必要です。祖母にとって、パチンコホールに行けば友達もいるし、パチンコに夢中になることでストレス発散にもなっていたのだなと思います。当時はわからなかったけれど、パチンコは非日常感を提供することで、大人のストレス発散に役立っているのだと思えるようになりました。
また私はパチンコというものは大人の社交場であるべきだと思うんです。私たちが幼い頃はパチンコ打っているお兄ちゃんってかっこよかったんです。パチンコの打ち方教えてもらって、そうやって大人になっていたのかなと思います。
ある意味、大人だけが入れる場所であるべきで、パチンコに中毒になってしまう人ではなく、分別ある大人が楽しめる場所にしないといけないと思っています」
今が創業のチャンス
パチンコ業界が始まって約60年が経った。創業者からは代替わりし、若い経営者も活躍する時代となっている。そんな今を福田氏はチャンスと感じているという。
「私自身もそうですが、今は経営者も2代目や3代目がほとんどになってきました。私たちは引き継いでいかなければいけないものはあるけれど、0から創るチャンスというのはなかなかありませんでした。他業界からみれば恵まれた環境のなのかもしれないし、ないものねだりなのかもしれませんが、起業家精神はなくなっていたのかなと思います。
今はパチンコ業界にとってピンチではありますが、だからこそ創業のチャンスだとも思います。まったく新しい業界に進出するという意味ではなく、0から創るといった創業の精神を持って取り組まないとパチンコ業界をさらに発展させることは難しいです。
この業界は、トップ企業が動けば全企業も同じように動くといった業界でもないので、ひとりひとりの経営者が考えて一緒に業界を変えていく必要があると思います。このピンチを乗り越えたら業界は変革されると思いますね。
海外進出を考えるのもいいと思います。既に海外に出店している企業さんもありますよね。ナイスチャレンジだなと思います。やはりパチンコは日本独自のユニークな文化なので、輸出する価値はあるのではないでしょうか。海外にはその土地ならではのニーズがあると思うので、ニーズに合わせて発展させていく必要はありますが、可能性は大きいと思います。
先日、シリコンバレーに視察に行きました。様々な先進企業を見学させてもらって、非常に刺激を受けました。もっと視野を広げて挑戦していかなければいけないなと感じました。ピンチだからこそ、チャンスはたくさんあるのだと思います」
おわり