パックエックス通信

株式会社アット、尹未宇社長 TOPから学ぶ

アット、尹社長

尹未宇/株式会社アット 代表取締役社長。1981生まれ。アメリカ留学後、2003年父が経営する株式会社アットに入社。2007年に代表取締役就任。現在は神奈川と東京で3店舗を経営する。

株式会社アット(アット)は神奈川、東京にて3店舗のパチンコホールを経営する企業。尹社長が経営を任されることとなった当時は決して経営状況は順調とは言い難いかったものの、様々な工夫で組織を成長させてきた。尹社長が特に力をいれているのが人材育成の話も加え、今までの取り組みについてお聞きしました。

順調とは言えないスタート

尹氏の経営者としてのスタートは、決して順調とは言えなかった。

「お前がやらないのならパチンコ事業は辞める」

アメリカ留学中の父からの電話に、状況もわからないまま、辞めるぐらいなら自分がやろうと決意したという。帰国後2003年に株式会社アットに入社するが、当時の経営状況は思わしくなく、まずは借金を返済するということから始まった。

これが尹氏にとって、社会人として、そして経営者としてのスタートでもある。

「帰国後すぐに、全てを任されることになりました。わからないことばかりでしたが、父に聞いても『自分で考えろ』『全部やれ』としか言われませんでした。でも今思えば、そうやって全て任せてもらえたから、自分がやらなければいけないという責任感を持つことができました」

当時は、開店後数時間経っても来店客は0人ということもあったというが、現在営業は非常に安定している。しかし、その一方で人材育成の難しさを改めて感じる出来事もあったという。

「わかりました」とは言うけれど…

以前ある事件が起こった。ある社員(Aさん)が出勤時間になっても店舗に現れなかった。その場にはアルバイトスタッフしかおらず、Aさんに連絡を取ろうにも連絡先がわからなかったという。そこでアルバイトスタッフが別の社員に連絡を取って事情を話し、Aさんに連絡を取った。

当時のことを尹氏はこう振り返る。

「別の社員がAに連絡を取ったら、寝坊してしまったということですぐに出社してきました。ですが店舗の業務には社員だけにしかできない事もあります。短い時間ではありましたが、アルバイトスタッフだけにしてしまったことに、社員としての責任感が足りなかったととても反省していました。ですが人間だからミスはあります。だからこそ、みんなで補えるような体制作りをしていかないといけないという話を社員達としました。

この事件によって社員同士の連絡先はわかるけれど、アルバイトスタッフとは共有していないことがわかりました。そこで、今後の対策のためにとアルバイトスタッフも含めた連絡網を作りました」

ところが、そのすぐ後に同じような事件が起こった。

「今度は別の社員(Bさん)が寝坊して遅刻するということが起こりました。連絡網を使えるように準備していたかと聞いたら、していなかったと言うんです。それに対して私はすごく怒りました。BはAがとても反省している姿を見ていたのに、対策しなかったのです。

Aの事件があったからこそ、連絡網を作ろうということになったのに、人をバカにした行為だと叱りました。自分の伝え方が悪かった部分もあるので自分も反省しています。」

成長するタイプとは

同じようにチャンスがあったとしても、成長する人、しない人がいる。その違いは何か、どういう人が成長するのか。人材育成について考えていた尹氏は、その後の自分自身の経営者としてのターニングポイントともなるある本と出会う。それが「経営の教科書(新将命著)」である。

「この本に出会い、経営者として必要なことを改めて感じました。大阪に出張に行くときに持って行ったのですが、東京、大阪間の新幹線でほとんど読んでしまう程熱中しました。

この本の中でも印象的だったのは、ビジネスパーソンを“情熱”という切り口で分けると5つのパターンに分けられるという話でした。それは、“自燃型、可燃型、不燃型、消火型、点火型”※の5つです。

自然型、点火型の人はそれ程多くはないけれど、自分で自分に火を点けて成長していくので問題ありません。組織としては、全体の80%以上を占めるという可燃型の人にどう火を点けるかが重要です。つまり、経営者は自然型であり点火型でなければいけないのだと思いました」

※自然型:自ら進んで情熱の火を燃やし、燃えた火を持続させる人、可燃型:自分からは燃えていないが、だれかがマッチを擦ってくれれば燃える人、不燃型:自分からも燃えないし、人がマッチを擦ってくれても燃えない人、消火型:周りの情熱の火を消してまわる人、点火型:情熱の火をともすことができる、“マッチの擦り方”を知っている人

 

情熱の火を点けるタイミングと方法

経営者は自然型であり、可燃型に火を点けるための“マッチの擦り方を知っている”点火型でなければいけない。尹氏は社員教育には、情熱の火を点けるそのタイミングと、点け方が重要であると考えるようになる。

「Aの事件でいうと、退職も考える程落ち込んでいましたが、これが彼にとっては火が点くきっかけになりました。『このままでは辞めるに辞められない。会社に貢献してから辞めます』と宣言して、それまで以上に意欲的に仕事に取り組むようになりました。それをきっかけに非常に成長したんです。

何がきっかけになるのかは人によって違います。“やりたいことが見つかった”、“後輩が入ってきた”、“結婚した”、そしてAのように“ミスを挽回したいと思った”など様々です。きっかけを意図的に作ってやることはなかなか難しい。だからこそ、社員が成長しようとしている瞬間を見逃してはいけないと思いました。つまり、火を点けるタイミングの重要性を感じたのです」

火を点けるタイミングの重要性

タイミングを見逃さないために、尹氏が行ったのはそれまで以上に積極的なコミュニケーションだった。

「それまでも当社では社内の風通りはよい方だったと思います。ですがさらに意識的に行うようにしました。普段の何気ない会話ができるような関係性を築くことで、ちょっとした変化にも気づけるようにし、気持ちが高まっていると感じたらどんどんチャンスを与えたいと考えたんです」

尹氏は1店舗あたり、週に数回は必ず顔を出すようにしているという。

「店舗に行ったら仕事以外の話をすることも多いです。だからスタッフみんなの趣味もだいたい把握しています。気軽に話ができる関係性だからこそ、意見も出してくれる。こういうことをやりたいと言ってきたら、よく話を聞いて、任せてみるということをやっています」

情熱の火の点け方

スタッフとのコミュニケーションの中で尹氏が気を付けているのは、コンセンサスを得ることである。様々な立場からの意見を出し合い議論をした結果、コンセンサスを得ると社員の納得度が高い。そのため、社員がモチベーションアップを高く取り組むことができる。

これが情熱の火の点け方の工夫のひとつである。

「私自身、昔は父と議論になることが多くて、散々自分の言いたいことを言っていたから。今自分がスタッフたちから言いたいこと言われても気にならないです(笑)。むしろもっと言ってほしい。私はみんなで会社をよくしていきたいという想いが強いです。だからこそ、思ったことをどんどん発信し、みんなで議論していきたいんです」

そんな議論がより活発になるのが、他社店舗の視察後である。

「自分の頭の中にあるものだけで考えたのではだめ。いろんなことをインプットしながら考えていくことで新たなアイデアは生まれます。考えるきっかけを与えたいし、自分のアイデアを実現し、それに対してよい反応を得ることでのやりがいを感じてほしい。そのために店舗視察を行っています。そこで得たヒントを自社に活かしていることはたくさんあります。

例えば石神井店に置いてある大きいダルマ。以前の石神井店の内装はスッキリとシンプルでした。でも街の雰囲気やお客様層を考えたら、もっとワイワイ楽しい内装にしたいと考えていました。そんなときに島の上にダルマが並んでいる店舗を視察させてもらったんです。それを見たとき衝撃を受けて、これだ!と思いました。

さっそく店に戻ってみんなでどのように自店に活かせるかアイデアを出し合いました。最初は同じようにダルマを並べようと話していたのですが、あるスタッフが『調べたらけっこう重いですよ、ちゃんと設置しないと落ちてきたら危ないです』と意見を出してくれました。

その後の議論で、最終的にはマスコット的に店頭に大きいダルマをひとつ置こうという案でまとまりました。そうやってみんなでアイデアを出し合うという過程もとても大事だと思います。

先日も大阪にいいお店があると聞き、全社員を連れて視察に行ってきました。営業を休むわけにはいかないので分けて行ったのですが、そのときこんなことがありました。

今スタッフ数が少ないので、視察を勤務扱いにすると営業の方に影響が出るのではという懸念がありました。社員にはきちんと休みを取ってほしいけれど、現実的には休日扱いにしないと難しく、参加は任意にしようと考えていました。そうしたら社員の方から『休み扱いで構わないから行きたい』と言ってくれて。

ほとんどの社員が参加することができました。何のために行くのか、ちゃんと理解して共感し、みんなで会社をよくしていこうと思ってくれているからだと思います。これは本当にうれしかったです」

情熱の火を燃やしつづけるために

日頃からコミュニケーションを取り、スタッフの意欲が高まっている瞬間に情熱の火を点ける。そしてその火を燃やし続けられるよう、尹氏はさまざまな機会を作っている。そのひとつがアット石神井公園店の出店であった。

アット石神井公園店は、3店舗目となる店舗であり、尹氏が代表となって初めての出店だった。石神井公園エリアは競争が厳しく、難しいと言われているエリアでもある。さらにグランドオープンを経験したことのあるメンバーはほとんどおらず、全てが挑戦だった。

当時のことを、現在統括店長を任される須藤勇太氏はこう振り返る。

「グランドオープンはやらなければいけないことはたくさんあるし、やったことがないメンバーも多い。私は当時はスタッフとして立ち上げに携わりましたが、オープンしてからもしばらくは店舗内は混乱状態でした。毎日バタバタしていて、トラブルもたくさん起こりました。

その原因の多くは、スタッフ間のコミュニケーションがうまく取れていないことでした。例えば、台を設置するために必要な部品を事務所に置いておいたら、いつの間にかなくなっていたという事件がありました。おそらく誰かが不要なものだと勘違いし、掃除をするときによかれと思って処分してしまったのだろうと思います。

事前に『これは必要なものだから』とスタッフみんなに共有ができていれば起こらなかったミスです。そういったことがいろいろと起こり、これではいけないという話になり、どんな些細なことでも全部共有することにしました。

それまでスタッフ同士の会話がなかったわけではないのですが、共有しようとなってからは業務上の会話が増えました。そうすることでミスも減っていきました。これを機に、『みんなで会社をよくしよう』という雰囲気が高まっていったように思います。

今では社員はもちろん、アルバイトスタッフもそれぞれの立場から会社をよくするためのアイデアをたくさん出してくれます。例えば、開店前に並んでいるお客様にお茶のサービスをしようとか、椅子を置いて座っていただこうとか、そういったこともスタッフ発信です。グランドオープン当時と比較するとスタッフも成長しましたし、営業面でも安定してきました。組織のレベルが上がってきたのではないかと感じます」

人の夢を形にしたい

会社が成長していくには、社員の成長が欠かせない。しかし、社員が成長しようとするきっかけを経営者が作ることは難しい。だからこそ、社員の意欲が高まっている瞬間を見逃さないよう日頃のコミュニケーションを積極的に取り、チャンスをどんどん与えていくという尹氏。「社員には夢を追わせたい」のだという。

「私は“覚悟”という言葉を使っていますが、人は覚悟を決めたときに成長するのだと思います。その回数が多ければ多いほど成長する。覚悟を決めるタイミングは人それぞれですが、自分のやりたいことが明確になり、夢を持ったときなのではないかと思うんです。だから会社は社員が夢を追いたいと思える環境を作ることも大切です。

例えば上が詰まっていて、いくらがんばっても昇格が難しそうだったら、モチベーションはどんどん下がっていてしまいます。そのために当社では空きポストはたくさんあるし、誰にでもチャンスはあると社員たちに示すようにしています。がんばった先の明るい未来を想像させることで、モチベーションを高く仕事に取り組んでほしいと思うからです」

現在株式会社アットには十数名の社員が在籍する。その一人ひとりと向き合い、社員の成長をサポートしようと奮闘する尹氏自身は、どこにエネルギーの源泉があるのだろうか。

「私には人の夢を形にしたいという目標があります。そこが全ての源泉です。社員には夢を追ってほしいから、夢を追える会社にしたい。それぞれの夢が何だっていいんです。それを叶えられるようにサポートして、形にするのが私の目標です。そのためにも、私はいつも社員たちの情熱の火をともせるよう、誰よりも元気で、自分自身の情熱の火をともし、燃え続けられる経営者でありたいと思います」

尹氏自身がまだ34歳、スタッフもほとんどが20代と若い組織である株式会社アット。変化のスピードが早い現在において、今後生き残っていくためには若い世代のアイデアをどんどん取り入れていくことも必要である。情熱のある経営者が率いる若い組織には今後の成長を大いに期待できる。

前回のインタビューでも語られていたように、株式会社アットが「中小企業の星」になることはそう遠くはない未来かもしれない。

―おわり

関連記事