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株式会社マルハン、韓裕社長 TOPから学ぶ

韓裕/株式会社マルハン 代表取締役。1963年生まれ。法政大学卒業後、ホテル、ゴルフ、不動産事業を展開する企業を経て、平成2年、マルハンに入社。当時、順調に成長を続けていたマルハンの事業戦略を根本から見直し、サービス向上策を積極推進。営業本部長として売上高1兆円企業への舵取り役を担う。平成18年、代表取締役副社長に就任。平成20年、代表取締役に就任。

韓社長、本日はよろしくお願いします。業界のリーディングカンパニーとしてトップを走り続けているマルハンさんですが、「業界を変える」というビジョンがうまれた経緯を教えてください。

私は入社した当初から「業界を変える」という大それたことを考えていたわけではありませんでした。社長の息子として、大学卒業して他社で勉強した後に、26歳の時に入社しました。当時のマルハンは、30数店舗、従業員800名、売上1000億。業界のトップグループに入っており、それなりに注目されていた企業でした。

経営全体を見ていく上では、経理財務の基本を押さえておかなければ、ということで最初は経理部に所属していました。でも当然専門知識もなければ、性格的にも、経理には向いていない方でしたので、苦痛で仕方ありませんでした。経理をやりながら、仕事を終えた後や、土日に関西圏の店舗まわりをしていました。そして、自社の店舗を見たときに、「ああ、ダメだ、これは・・。」と思ったんです。

大学生の頃からパチンコが大好きで、よくやっていましたので、「お客様をお客様と思わない。」「せっかくパチンコを楽しんでいるのに、横にはガラの悪い店員さんがいる。」そんな当時の業界の姿は分かっていました。

でも、業界トップクラスのマルハンは、もっと近代的でちゃんとしているのだと思っていました。ところが、同じでした。マルハンも例外ではなかったのです。

それまでは何となく自社のことを見ていましたが、自分の将来を描いたときに、『自分の職業に誇りを持ちたい。自分の仕事を、人に伝えられるようなものでなくては嫌だ。』という強い気持ちが生まれました。だから、最初は業界のためとか人のためというより、自分の将来を考えた時に生まれた気持ちが始まりでした。

社内改革をしなければならないと思い、経営企画室という部門を作りました。メンバーは私ひとり。経理の業務との二束の草鞋で、現場を回って、もっとこうすべき、ああすべき、と気になることを指摘し始めました。

「軍艦マーチをやめた方がいいんじゃないですか?」、「怒鳴り声でのあおりマイクって、どうなんでしょう?」、「従業員がホールで煙草を吸うなんてもってのほか。禁止します。」その他にも予算制度を作ったり、店舗ごとにばらばらだったロゴマークを統一したりと、やれることから着手していきました。

しかし、現場はそんなことおかまいなし。26歳の若造が、社長の息子だからって入ってきて色々やり始めたけど関係ない。と、全く響いていませんでした。このようなことを、経営企画室からの決め事として店長会議で言っても、店舗に行くと何も変わっていませんでした。それから1年以上やり続けましたが、全く響かないどころか、バカにされていましたね。「あいつに何が分かる。」と。結局、やっていたことは全て空振りで、何にも変わりませんでした。

「30店舗を束にして変えるのは無理だ。この会社はどうやったら変わるんだろう。」何をやっても空振りに終わってしまい、私には、もう策が見当りませんでした。会社を変えるのは不可能なんじゃないか?当時の経営幹部たちは、その時30数店舗のマルハンを、100店舗にする、と言っていたんです。でも私には、そんな未来が全く見えませんでした。

一体どうやってやるんだ。組織もぐらぐらで、人材も育っていない。店を作ればいいってもんじゃないだろ。でも自分の中には何のアイデアもありませんでした。

その時100匹目の猿現象という話を何かで目にしたんです。

南の島の猿が芋を食べていた。1匹の猿が、芋を海水で洗って食べることを覚えた。そして、そのやり方をまねる猿が現れ、海水で洗ってから食べる猿が2匹になり、4匹になり、8匹になり・・。そしてどこかの臨界点を超えた瞬間に、その島の猿が全部、一気にそのやり方をするようになった。

この現象を、100匹目の猿現象と言うそうです。私は、これだ。と思いました。一気に全部を変えることは諦めよう。今のやり方であと3年やっても多分変わらない。その時はものすごく遠回りに思えましたが、まず1店舗だけ、自分の理想の店舗を運営させてもらおうと思いました。それも、新規店舗ではなく、築数年の既存の店舗で、マーケットも中くらいの店を任せてもらって、モデル店にしようと考えました。それが、静岡の草薙アピア店です。

当時のパチンコは、客と対峙して、騙し合い、駆け引きのし合い。そして、軍艦マーチ、マイク呼び込みがパチンコ店を象徴していました。いわゆる“職人気質”の世界でした。

でも私はそうじゃないと言い続けたのです。パチンコはサービス業だ。ファーストフードやファミレスと同じように、ちゃんとした採用をして、しっかりトレーニングすれば職人でなくてもホールは営業できる。サービス業なんだから、きっと女性も戦力化できるはず。仮説として訴えていたもの、いくら言っても相手にしてもらえなかったものを、証明する店舗を作りたかったんです。

策が見当たらなくなってからのチャレンジだったんですね。韓社長が描くモデル店を作るために、何から始められたのでしょうか?

モデル店のXデーを92年の4月と決めて、まず初めに取り掛かったこと、それは採用でした。会社というのは、一人ではできません。自分の協力者を探すことが必要です。自分の想いに共感してくれる協力者がどうしても必要でした。その時に初めて、もう一度深く、深く考えたんです。そもそも、パチンコ店というのは、お客様に何を提供して利益を得ているのか。今の会社、今の業界のままではダメだ。自分は5年後、10年後もパチンコ業界で働いている。その時に、パチンコ業界は素晴らしい、と言えるようにしたい!

会社には理念が必要です。それは経営者が一人で描いているのか、そこに参加する人全員の共有事になっているのかとでは、これは大きく違いますね。単に額に飾っているだけの理念では意味がありません。そして、その理念やビジョンをひとつの想いとして、他人に伝えていく作業、共感、共有してくれる人を探す作業、これが採用活動だと思います。それまでは、「いま給料いくらもらってますか?うちは1割増しで出しますよ。」というのが採用活動でした。そうではなくて、採用する側とされる側の真ん中に、労働条件ではなく、一番目にくるべきもの、それが理念やビジョンでなくてはならないと思います。

私は、自分はこんな会社を作りたい、こんな業界にしたい、ということを伝え始めました。

その時入社をしてくれたメンバーからしたら、何も保障されるものはないし、だけどこの人が言っていることにかけてみよう。と思うだけの価値を感じてくれたのだと思います。彼らに私の想いを伝えて、「わかりました、自分も参加してやってみたいです。」と言ってくれた時に、責任が生まれました。

それまでは、自分だけの考えだったけれど、共感してくれる人がいると、責任になっていくんですね。スタートメンバーと私の共有事として、自分達が目指す共有事として、それは存在していました。それが現在のマルハンイズムの原型なんです。それを実現するために、取組みを始めた草薙アピア店。

将来ここに参加をするであろうマルハンの社員のために、私達が造った新しい価値を、そのときには居ない未来のお客様に支持をして頂くために。というのがスタートでした。つまりそれが「業界を変える。」ということ。そういうプロセスを経て、生まれたビジョンでした。パチンコはサービス業である、ということを軸にするということは、組織そのものを変えることでもありました。

サービスの提供ということをどかんと真ん中に置いたときに、社員はどんな人を採用して、どんな教育をして、どんな考え方に基づいてパチンコホールが存在するのか、そこでその目的を達成するためには、パートナーとなる会社は、どんな会社が必要なのか。今までと違うものがどんどん見えてきて、それを軸に会社運営のあり方そのものも変えていきました。

先ほどの100匹目の猿の話ですが、韓社長ご自身が、臨界点に到達したな、と思った瞬間は?

明確なものはないんですが、ものすごいスピードで、変わっていってるんだ!と実感する毎日でしたよ。戦争みたいな日々でしたが、こういう組織を作らないといけないんだ、という信念を強く持っていたので、絶対に妥協をしませんでした。それこそ10円の不正も許しませんでしたよ。

それは業績をマルハンで1番あげていようが、関係ありません。だめなものはだめ。杓子定規にやったわけではありませんが、自分達が目指すものに対しては妥協しない、という姿勢を貫きました。社員にも、確固たる信念をもって改革を断行しているんだ、と映ったと思います。

「企業理念とは、社員全員の共有事」という言葉が非常に印象的です。額に飾られているだけのものにしないためには、ビジョンや想いを全てのスタッフに浸透させる必要があると想いますが、どうやって浸透させていかれたのですか?

マルハンイズムというものを作りました。>マルハンイズムの浸透のために、あらゆる取組みをしています。そもそも新入社員を採用するときに、雇用条件などはもちろん説明しますが、私達がどんな会社を目指しているのか、どんなことを大切にしているのかを伝えるとき、そこに当然マルハンイズムが出てきます。まずはマルハンイズムに共感できるかどうかが、採用の判断基準になります。

そして、入社後のイズムの研修では、「業界を変える」とはどのようなことなのか、どう変えるのか、そこに参加をする個人個人は、どのようにあってほしいのか、ということを伝えます。店舗に配属された後も、スーパースター制度や、ありがとうカード、イズムの芽など、マルハンイズムを維持継続するための仕組みを取り入れ、企業文化を作っています。常に、マルハンがお客様に提供する価値はどういうことなのか、ということを考える組織になるための仕組みです。

このように、マルハンイズムを作ることも大変ですが、組織の中に根付かせていくことはもっと大変なことです。何も知らない人が入ってきたときに、きちんと学んで維持継続していく。これが大変難しくて、この15年くらいの間に試行錯誤を繰り返して、今日にたどり着いた。という感じです。

韓社長にインタビューするというと、色んな方から「どうすればマルハンのようになれるのか聞いてきてほしい」と言われました。教えてください!

どうすれば、ですか・・難しいですね(笑)何で出来たのかわかりませんし、もう一回初めからやれといわれても出来ないかもしれませんね(笑)。マルハンとして大切にしていることをお話すると、一つは、マルハンはものすごい切れ者のトップが構想も方法論も綿密に持っていて、それをトップマネジメントでああしなさい、こうしなさい、と指示してやってきた組織ではありません。しいて言うならば、【みんなが考える組織】を作ってきました。

例えば、5店舗位の規模で、私と同じように2代目として企業のトップを務めている人がいるとします。この人をずっと見ていると、何もかも仕切っているんです。偉そうな雰囲気を出して、全てを采配しています。お父さんが社長で、自分は専務をやって、機械もイベントも全部自分で采配して決めている。私はそれを見ると、なぜあなたがやってるの?と言いたくなります。

あなたより優秀な人は沢山いる。たまたま専務で権限だけ持っているけど、あなたより営業力がある人に考えさせてやらせたらどうなの?もっと経営者としてやるべきことはあるはず。と思うんです。私はモデル店を作ったときから、現場の仕事に関しては一切やりませんでした。業界ではバカにされたこともありました。モデル店を立ち上げる際は、現場は全てスタートメンバーに任せました。彼らも初めは戸惑っていましたし、失敗も沢山していました。

当時はホールコンピューターが導入されたばかりで、それまでは赤鉛筆と黒鉛筆を持ってやっていた時代でした。彼らは、ホールコンピューターを受け入れなかった昔の職人気質の人たちを、どんどん抜いていきました。会得するまでに10年かかると言われていたことを、数週間でできると証明していったんですね。

職人の勘よりも、大切なのはデータをしっかり取って分析をすることだ。と自分達でどんどんやっていきました。もしも私が、全てを采配して、メンバーにそれをやらせなかったら、「はい、わかりました。」と言うことだけが彼らの仕事になっていきます。どうせ考えるのは上司で、「自分達は指示通りやればいい。」「指示通りできなかったから怒られる。」と、全く考えることをしない組織になります。個人の成長度を見ても、その差は大きいでしょう。

マルハンイズムが大切だということや、理念型の経営をしなければならない、という大筋のものは当然私のこだわりの中でやってきましたが、どんな教育をするか、維持継続するための仕組みに関してなど、私にアイデアがあって、ああしろ、こうしろと言ったものではありません。企業の文化とか、一人ひとりの成長と共に、この組織ができたから、良かったんでしょうね。

経営者は、方向性を指し示したり、チェックしたりしなければなりなせんが、世の中の多くの経営者は組織に「君臨」します。自分が考えたことを忠実にやれ、ということを求め、それを管理します。

すると、それが経営だという考えが組織に根付き、そこからは新しい考え、競争力はうまれないのです。結果として、指示待ち人間ばかりの組織になりますね。私達がやっていることは、そもそもそういうマネジメントとは対極のスタイルだと思います。自分で考えて、自分で行動を起こすことを求められます。

自ら考え自ら行動する組織。ということは、社員が権限を持って実行できることも多いのでしょうか。

はい、マルハンの店長は非常に大きな権限を持っています。そのかわり責任も大きく、責任と権限は同量である。ということを実践している組織です。年間予算があって、それをベースに月間予算、週間の戦略、日毎のプランを立てます。明日のプランの指示は誰からもきません。決裁権限を委譲しているので、指示待ちではないんです。

例えばもう何年も前ですが、こんなことがありました。とある店舗の近隣に、あるチェーン店の大型店が進出をしてくると決まった時のことです。それまでは、その地域の競合4店舗と戦っていたわけですが、うちの店長は、普段は競合関係にあるけど、今は皆で共同戦線を張って、マルハンも含めた5店舗で新店と戦うべきだ。と考えたんです。

そこで、競合店の責任者の人たちと話して、合同チラシや、景品イベントを開催したんです。新店のオープンが迫っており、企画は次々に即決されていきました。うちの店長になんの決定権もなく、いちいち本部に確認をとらなければいけなかったら、こんなことは出来ないですよね。

競合店の皆さんは、専務とか、取締役だとか、経営者の方がほとんどだった中で、うちの店長も即決する権利を持って参加していました。そのくらいの権限委譲をしています。他にも、14時と19時に他店の統計を取りに行っていますが、ある店でいつもは17時位に、普段仕事帰りのお客様がご来店されて稼働があがってくる時間にも関わらず、稼働があがらない。競合店を見に行ったら、夜のイベントをやっていたとします。そうしたら間髪いれずに、次の日から何か仕掛けます。現場で物事が動かないと、競争には勝てないんです。図体は大きいですが、スピードを鈍化させてはいけないと思っています。

話を戻すと、マルハンとは、自ら考え自ら行動する組織です。しかし、一つのマルハンイズムという軸、そしてマルハンの一員として持たなければならない指針がはっきりしていて、その中でやっているので、ばらばらにはならないんです。

なぜマルハンが強いのか、というと、そういう組織であるから、ということでしょうか。そのかわり、それを創り上げていくのは忍耐がいります。失敗も沢山あります。マルハンの店長達は、それこそめちゃくちゃ失敗していますよ。私が知らないところでも、しょっちゅう失敗していると思います。

例えば経費を掛けて景品イベントしたけれど、全く響かなかった。そんなことは一杯あるでしょうね。もちろん責任も問われます。店がうまくいかなければ転勤という可能性だってあるわけです。

でも、だいたいの企業は、上に「決める人」がいて、その通りやりなさい、と指示を出す組織です。それでは個人は成長しないし、つまり組織は強くならないと思います。

いち店舗の経営者と言っても過言ではないほどの権限を委譲されているのですね。店長になるまでのプロセスがとても大切だと思うんですが、育成のポイントは「任せる」ということでしょうか。

そうですね。ただいきなり、「さぁ、うちは個性を大切にする個性派集団です。皆さんにもそれぞれ個性があるので、自由にやってください。」とやると、会社はめちゃくちゃになりますね。当然、初めは基礎を徹底して教育します。これはもう躾と同じで、マルハンとしての基礎、身だしなみ、挨拶、チームワークを大切にする、約束を守る、時間を守る・・・そいういう基本的なことが出来ない人には権限は与えられません。

基本的なことができるようになったら、少しずつ任せる比率を上げていき、成長をさせます。店長にも、そういったマネジメントを求めています。大きな権限を持たせ、自分で考え行動することを求めますが、それと同様にマルハンイズム、つまり土台の部分を追求して、こだわっています。「我々はマルハンだ。」という意識は、一つの軸として揺らがないものなんです。

もう一つ、「地域一番店になるために必要なことを聞いて欲しい」という声が多くありました。

当然立地や機械などのハード面は重要ですね。それを与えられた店長がどう使いこなすか、ということも。ただ、それだけでは店舗は成り立ちません。今マルハンの店長たちが取り組んでいることは、ベーシッククオリティ、つまり基本の追求です。基本をまず徹底的にやらないと、上辺だけを整えてもうまくいきません。

土台がちゃんとできてないのに、イベントがどうだ、機械がどうだ、とテクニックに走っていく人は意外と多いものです。土台の中には、接客やクレンリネスなど色々とありますが、やっぱり一番大切なのはチーム力ですね。チームとしてのモチベーションの形成が崩れたら、お客様に向き合えません。だからこそ、土台に目を向けるようにしています。

土台があってこそ、戦略が生きてくる。店作りには、そういう方程式、順番があります。マルハンはものすごく土台の部分にこだわっています。特に人材の部分で、チームマルハンとして一つになることをすごく大切にしています。不調な店舗があれば、必ずイベント・機械の前に、人はどうなんだ、接客、掃除はちゃんとできているのか、というように土台の部分をまず見て、テコ入れをしていきます。

土台の部分というのは、どのくらいがマルハン独自のものなんでしょうか。

全てです。クレンリネス一つにしても全て独自のものを創り上げています。接客でいうと、基本を徹底的に、しいて言うなら、形も大切ですが、ベースになるのは「お客様を大切にする」という理念みたいなもので、それも土台ですよね。理念が本質であって、形は表面的なものですから、表面的な部分だけ追いかけていってもだめだと思います。

例えば他店のオーナーがマルハンの店舗を見に行ったとします。マルハンの接客はすごい、と部下を呼びつけて、コンサルを雇ってもいいから、徹底的に従業員を訓練しろ!と言ったとしたら、その時点で分かっていませんよね。なぜマルハンの人が、いきいきとお客様に向き合っているのか。それは、徹底的に訓練したからではありません。そのオーナーは本質が見えていないんですね。

つまり、マルハンの特徴は、ベースがあって、共感力がある。そして方法論・戦略がある、ということです。それと、他社から見たらしつこいと思うんですが、やり続ける、ということ。我々は決して諦めません。そうは簡単に結果がでない面もありますが、あの手この手でとにかく結果が出るまでやります。これはけっこう大切ですね。

それでは、マルハンにあって、他社にないものって何だとお考えですか?

言葉としては、人材力、絶え間ない創造力とやりきる力、チーム力、イズム、本気、一貫性・・・、このような言葉が浮かびます。私は、Aを選ぶか、Bを選ぶかよりも、選んだほうを成功するまでやり続ける事が大切だと思っています。だから、私は、成功するためには、成功するまでやることだ。とよく言ってきました。マルハン社員はやればなんとかなる、とみんな思っていますよ。その代わり、途中で止める、中途半端に、なし崩し的に諦めるということは、絶対にありえないと思ってやっていると思います。

営業本部長時代によく言っていたのは、チェーンストアを学んだマルハンにとって、多店舗化の一つの武器は、全部一律にして標準化することではない、ということ。1店舗あたりに、3店舗くらいの対抗店の統計とっていますが、そうすると自店を含めて、毎日1000店舗くらいの稼働率のデータが集まります。それで地域1番店になっている、いないなどを、日々分析し、うまくいっていない傾向が見えたらすぐさま手を打ちます。

例えば新店を出して、オープン1週間、2週間経ったときに、「あれ、この地域、夜がめちゃくちゃ稼働が悪い。何だこれは。」というような場合がありますね。そうなったときに、前を向くとマルハンの対抗店、700店舗が、700通りのやり方でマルハンを攻めてくるのが見えます。ただ、後ろを向くと、マルハン260店舗の仲間がいる。この仲間達の中に、夜の稼働を高めていくためには、どうしたらいいのか、というのを経験値として持っている人が沢山いるんです。

店長達は、それぞれの場所でマルハンの代表として戦っています。だけど、一人やっているのではなく、仲間の引き出しを共有しているので、沢山のノウハウがあるんです。それをカスタマイズして、自分の地域に合うようにしてやっていく。その繰り返しで、戦っているんですね。マルハンには、色んな人たちのあの手この手が沢山つまっているんです。

これが他社にはないマルハンの営業の厚みだと思っています。なかなか答えがでないことも多いんですが、とにかくあらゆる手を考えて、絶対に成功するまでやる。諦めないんですよ

260人の店長それぞれのあの手、この手が、マルハンの営業の厚みだというお話をお伺いしましたが、店長の経験値を集積する仕組みがあるのですか?

システムというより、営業戦略部という部署があり、その部署で全国のマルハンの強み、弱みの抽出を行っています。また、他店を研究してレポートし、全店に配信をしています。今この部署の部長をやっている社員が、店長だった頃に私にプレゼンしにきたんです。業界のホールコンピューターが1店舗用の時代の頃です。当時我々は約100店舗を展開していて、本来であればその全店、あるいは全設置台を、きちんとネットワークをしてデータを蓄積していく、それをマルハンの武器にしていくことが必要だ、と独自に研究していたものを見せてくれたんです。これが素晴らしかった。

そして、現在では自社コンピューターを開発して、マルハンオリジナルコンピューターを使っています。例えばスロットでいうと、現在、260店舗で約3万6千台以上が日々稼働しています。全店分のデータを集積すると、機種ごとの傾向値などの数値が出ます。それらを蓄積、分析することで、シミュレーションができて、予測を立てることができるのです。このように、データ活用をしなければいけません。

また、オーイズミフーズが展開する居酒屋「わん」に招待されたときの話です。大泉社長と食事をしたのですが、わんの料理が、とても美味しかった。どうやって作っているんですか?と聞くと、本部に、和食、中華、イタリアンなど、それぞれのジャンルのプロフェッショナルを集めているんだそうです。それこそ有名ホテルの総料理長だとか、一流レストランのシェフだとか。

そして、一つの食材に対して、そのプロ達が徹底的にレシピ作りをするそうです。味付け、盛り付け、ネーミングなど、徹底的に研究して1品を創り上げ、それを店舗で出しているのだそうです。この仕組みは、飲食では当たり前のことかもしれませんが、聞いていてふと思いました。パチンコの新台が出たとき、その新台に対してうちの260人の店長は、全員が素人です。新台導入1週目は好評。2週間目、だんだん利益もとれるようなります。

3週間経つと、高稼働の店舗もあれば、半分くらいの稼働になっている店舗もあるわけです。新台を食材に例えると、この素材を260人の職人が、全部違う味付けにして、自由に調理していたんですね。これではよくないということで、今は営業戦略部が新台導入前に、全てデータ取りをし、初日、二日目、三日目にどのようにしたら良いか、いわばレシピ作りをしています。お客様に喜んでいただくために準備をします。

このロス管理を徹底的にやるスペシャリストが、営業戦略部です。今では各メーカーに新台作りのアドバイスをやることもありますよ。

また、マルハン店長アカデミーとして、店長になるための研修を行っています。ホールコンピューターの使い方、シミュレーションの組み方、イベントの考え方など、を教える、いわば営業の頭脳集団です。この部署が無かったらマルハンはどうなってたかな、というくらい重要部署です。

先ほどロス管理という言葉が出ましたが、かなり徹底されているのでしょうか。

玉1個4円ですね。例えば1回大当りして、玉が10個多い、少ない、はお客様にとってはあまり関係のないことです。1000発出ようが、1010発出ようが、気にされるお客様はほとんどいらっしゃいません。だけどその10個は、例えば機械台10万台で考えると、10万台×10個×4円で400万円、10日で4000万円、30日で1億2000万円。・・1年間だと?すごい額になりますね。だけど、たった10個、なんです。

そこを徹底して突き詰めていく、ということはものすごく大切です。これもある意味、我々の商品作りなんです。マインドを持ってお客様に向き合っていくということのみならず、データ分析も商品作りだし、そこからアウトプットする出玉も同じくそうですね。

店長に求めることを教えてください。

トップレベルのマネジメントを求めています。私が業界に入ってきた頃は、サービス産業の中でいうと、パチンコの店長というのは一番末席にいました。自分達自身でも、パチンコをサービス業だと思っていなかった頃ですから、必要以上に卑下していた部分もあり、パチンコ業界を辞めた人は、パチンコ業界で働くしかない、潰しがきかない。という状況でした。

先日、ゲーム業界の人と話をする機会があったのですが、「ゲーム業界はいま、従業員のモチベーションがとても低く、活気がない。マルハンの社員達が、うちの会社に50人くらい入ってくれたら活気付くんだけど。」と言って頂きました。それを聞きながら、「この10年、20年のチャレンジの中で、我々は末席じゃなくなってきているのかな。」と思いました。順番は付けられないけれど、少なくとも地位は段々上がってきています。

トップレベルというのは、パチンコ業界の中でトップということではなく、他業界から、パチンコの店長が欲しい、その中でもマルハンの店長、エリア長クラスに来て欲しい。なぜなら、組織の行き先を指し示し、モチベーションの高い組織を作り上げ、戦略的にも最も秀でた人材が、あの業界にいる。そう言われるぐらいのレベルを目指して欲しいと思っています。つまり、サービス産業全体の中でのトップマネジメント。これを店長に求めています。

店長達はマルハンイズムの伝道者であり、体現するリーダーです。組織の中心にいつも店長がいます。マルハンも1万人を超える組織になりました。それでも、本社で働いているスタッフはわずか400人程度。1万人の中の、約96%に近い人達が、店長の部下としてマルハンにいるのです。店長は、部下から見ると、マルハンそのものです。

店長が、マルハンの象徴であり、成長のエンジンであり、そのエンジンが、常に力強く、常に新しく創造的であって、自分自身が成長し続けている。そういう姿が最も重要です。成長し続けるためには目標が必要で、その目標というのが、全サービスレジャー産業の中で、最も高いレベルのマネジメント集団の一員である、ということなのです。

そして、マルハングループが第二、第三の柱をつくったときに、違う領域でもそれらを牽引できる。そういう目標設定を店長には求めています。

ビジョンとして「パチンコ業界でES・CSの日本一になる」ということを掲げていらっしゃいますが、それらを図る指標はどのようなものでしょうか。

CSはOJT推進部で店舗のお客様への対応を定期的にチェックしています。またESに関しては、モチベーションサーベイを実施しています。一昨年実施したものでいうと、全従業員に136の質問に答えてもらい、例えば会社に対する信頼度、経営者、理念に対する信頼性等、さまざまな角度からESを図りました。

マルハン従業員は中でも、モチベーション対する意識が非常に高かったんです。色々な業種の1200社中95位、従業員が1万人を超える会社の中では1位という結果で、マルハンの組織は他業種に比べても、モチベーションがものすごく高い集団だということが分かりました。当然課題も出てきました。例えばチャレンジ精神が減退している、本社と現場との溝、本社部門間でのコミュニケーションが希薄になっているなど、これから課題になっていくんじゃないかということも含めて、全店長をはじめ、マルハンのリーダーが集うリーダーフォーラムでその分析結果を共有した結果、昨年マルハンイズムに3つの【組織理念】を付け加えました。

1位とは素晴らしいですね。逆に課題として出てきたことで、最も懸念されたのはどういうことでしたか?

最も見直さなければならないことは、採用でした。私はずっと共感型採用、と言い続けてきましたが、昨今現場の方から、「新卒の線が細い」という声が聞こえてきており、ずっと気になっていました。

そして、ある時ふと気が付いたんです。20年前私が改革のスタートメンバーである5人を採用した時には、見せるものが何もありませんでした。店舗は恥ずかしくて見せられない。研修制度もなければ、自慢して見せられるものが何一つなかったのです。唯一彼らに見せることができたのは、ビジョンでした。こういう会社を作りたいんだ。俺達は力をあわせれば絶対できる。そこには可能性がある。と、今無いものを見せて、採用をしていました。

ところが会社が発展するうちに、見せるものが沢山生まれてきたんです。学生と採用メンバーの会話を聞いていると、「渋谷のパチンコタワー、業界でも話題になったんですよ。」「伊東に立派な研修施設があります。」と説明し、学生は、「それはすごいですね、やっぱり業界で働くならマルハンですね。いい会社ですね。」と共感している。同じ共感でも、目に見えない将来に対する共感と、今あるものに対する共感とでは、ものすごい違いがあります。結局今あるものに共感をするということは、会社に依存する、乗りかかることでしかなく、線が細い、という現場の声の真意に、ハッと気付かされました。10年のチャレンジの中で、確かに色々なものを創り上げてきました。だけど、我々はビジョンによって結ばれているんじゃないのか。将来を指し示していないんじゃないか。

そこで、今一度、これからのビジョンを作ることに着手しました(チャレンジ2020)。それから、採用においては夢とかビジョンとか、将来のものにたいして結ばれる必要がある。そこに自分の意思で参画する。これがマルハンの共感型採用だということを、改めてみんなで確認しました。

「業界を変える」というビジョンに終わりはあるのでしょうか?

終わりはありません。

「業界を変える」ということは、売上が上がればいい、というものではなく、もっと多くのお客様に来ていただくとか、世の中からどう見られているかだとか、社会的な地位を上げるとか、そういうことだと思います。エンドレスであるけど、一定のところまでは早く持っていきたいですね。この前就職のランキングで99位にランクインし、一つの結果として出てきたという実感もありましたが、一方ではまだまだ遠い道のりだと思います。

やり続けなければと思っています。

最後に業界で働く方々へメッセージをお願い出来ますか。

人のモチベーションの原動力は色々あると思いますが、こうなりたい、ということなくして、やる気にならないと思います。会社で言うと、こんな会社にしたい。店舗で言うと、こんな店舗にしたい。人でいうと、こんな人になりたい。私は、それを持たずして、やる気を維持するのは不可能だと思っています。

高校の頃に野球をやっていて、29年前、甲子園で準優勝した時のことです。部員が300人位いる中で、私はどうしてもレギュラーで甲子園に出たいと思っていました。もう、とんでもない練習の量でした。朝の早くから起きて自主練習して、昼は寝て(笑)、夜も練習して、16キロくらい毎日走って、素振りして・・今考えると、よくあんなにできたな、と思いますが、やっぱり甲子園に出たかったんです。すごい競争を勝ち抜かなければならない。でもそれは、誰に言われてやったんじゃないんです。

私にとって、その経験が組織の原点になっています。だから、一番最初に会社に持ち込んだのが、自分はどうなりたいのか、どんな会社にしたいのか、ということでした。例えば上司が、それがない状態で部下の尻を叩く。これはナンセンスな話なんですよ。トップマネジメント、ミドルマネジメントの役割は、自分達はどうなりたいのか、部下達はどう育てたいのか、そういうことを、会社の中で組み立てたり、共有したりすること。そうしたら人は、そこに向って少しずつでも歩き出すんですよ。

意味もなく、気合が足りないとか、尻を叩くのは、マネジメントスタイルとしては違うんじゃないかな。それよりも、自分がどうなりたいのかということを探すこと。部下が見つけられるように手助けをすることが必要だと思います。なりたい自分を探すことが大切、でもそれは何処の世界でも簡単になれるものではありません。甲子園を目指している人だって、ほとんどの人が、夢破れて出場できないわけです。だけど、夢追いかける日々は、とても充実していて、沢山の仲間、沢山の経験をし、あの時にやっていてよかったな。と思うのです。そういう生き方を選択して欲しいですね。

あなたは今、何を目指していますか?、それは価値のあること?、素敵なこと?、わくわくすることですか?

それを探して、チャレンジしてほしいのです。読者の方は、20代、30代の人が多いと思いますが、人間の可能性ってすごいものがあります。自分の可能性、部下の可能性もそうです。それを信じて、チャレンジする人になって欲しい。私は楽観主義者なのかもしれないけど、いつもそういうことばかり言ってます。学生にも、就職して定年までの40年間はすごく長い、と話します。あなたが就職活動しているいま、存在もしていない会社が、40年後、あなたが退職するときには、世界一になっているかもしれない。それくらいの時間が40年という時間であって、何でもできるのです。やるかやらないかだけ。

ことを起こす側の人間になってほしいですね。また、同じ業界の仲間として、やっぱり頑張って、業界変えていこう。と言いたいです。いま私は47歳になり、何歳まで働くか分かりませんが、マルハンの店長達に言っているのは、俺達は猛烈に今まで頑張ってきた。振り返っても充実した人生だったし、頑張ってきた。これからももっともっと色々なことに挑戦していこう。そして引退するときに、自分の組織を見て、「俺達が30代の頃は猛烈に頑張って、この会社をものすごく成長させて、今日のマルハンをこんな会社にした。だけど今の若いやつを見てみろ、こいつら大丈夫か?チャレンジ精神が全然ないやないか!」というのは、俺達の責任だ。

そうではなくて、「こいつら見てみろ、俺達もめちゃくちゃチャレンジして、偉業を成し遂げてきた。でも、こいつらはもっとすごいよ。何をしでかすかわからんくらい、勢いがあるし優秀やで!」という組織と人材を作っていきたい。組織を残す、人材を残すということは、自分を残す、ということなんです。だから、自分を成長させるために、自分と向き合わなければなりません。せっかく働くのであればそういう人生を選択して欲しいと思います。

人は、こうありたい、と自分が描くイメージ以上にはなりません。こんな話を聞いたことがあります。<エール大学が、1955年に、ビジョンの偉大さを示す壮大な実験をしました。全卒業生に対して、3つの問いかけをしました。

「あなたには人生のビジョンはありますか?」、「そのビジョンは紙に書けるほど明確になっていますか?」、「そのビジョンを実現するための方法論をもっていますか?」

全てにYESと答えた人は、全体の卒業生の5%しかいなかったそうです。エール大学という、全米屈指の大学でさえ、5%だったのです。ただ、その話には後日談があって、20年後に追跡調査をすると、その5%の人達の総資産総額は、残り95%の人達の総資産総額をはるかに上回っていたそうです。こうなりたい、というビジョンを描く。そしてそれを明確にし、実現に向けての方法論を持って、取り組み始める。それがいかに大切か。もちろん5%の人たちが20年後に得たものは、お金だけではないはずですよね。若い人には、早くそれを知って欲しいと思いますね。

この業界には、まだまだ可能性があります。共に、業界を変えていきましょう。

韓社長、本当にありがとうございました!非常に勉強になりました。

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