株式会社八号線、澤野裕次郎専務 TOPから学ぶ 後編
新潟県にDELZE!BIGSITE(デルゼ!ビッグサイト)の屋号で6店舗運営している株式会社八号線の澤野裕次郎専務のインタビューです。後編では人事評価制度や人材育成、将来のビジョンについてお伺いしました。
御社では方針発表を全社で行うということですが、それも新しい取り組みですよね。
2018年10月に初めて事業計画発表会を実施しました。前年には理念の発表会のような取り組みは実施したんですが、2018年のものは来賓も招待したり、講師に講演を依頼したりと、より充実した内容にしました。
計画発表のあとは懇親会を開催していました。正社員全員で実施するので参加者を2日に分け、会は2日間連続で実施をしていました。
ここ数年はコロナのこともあり実施できていませんが、落ち着いたら再開したいと考えています。
なぜそのような形で方針発表を行おうと思ったのですか?
意外と、私や社長の考えを知らないと気付いたからです。ガチガチに決めた計画でなくても、最近何を考えているのか、どんなことをしたいと考えているのか。
将来的にはどんな方向性に向かって進みたいのかを直接社員に伝える機会を設けようと思ったからです。
御社では福利厚生の一環で、育児休暇の取得を積極的に行っていると伺いました。どのような経緯があったのでしょうか。
私に2016年に第一子、2019年に第二子が生まれました。第一子の際に出産に立ち会ったんですが、12時間近く陣痛に苦しみながら生んでくれた姿を隣でずっと付き添って見ていました。
その時のことを思い出すと、どんなに夫婦喧嘩をしたとしても妻に対しては頭が上がりません。その経験もあって、第二子の時も立ち会いました。私自身は、社員にとって出産の立ち合いよりも大事な仕事なんてない、と思っているタイプですから実際に社員にそのように伝え、休みを取ってもらい、子供の出産に立ち会ってもらったりもしていました。
第二子が生まれてからは、ただでさえ大変な上の子の世話に加え、下の子を世話しなければと思うと、ワンオペで育児は無理なんだと、恥ずかしながらその時ようやく実感し反省しました。
それまでは仕事や出張、飲み会などを理由に家にいない時間が多かったですが、それも仕事なんだからしょうがないだろうと、当然のことと思っていました。
妻の様子を見て、ワンオペで二人の育児は無理だと感じ、早く帰る日を決めました。今までは妻が子どもを見ていてくれたから、外で長い時間仕事ができていたんだと思いました。
それなら、当社で働く社員は大丈夫なのか?とその時にようやく心配になりました。仕事なんだから何とかお願いして奥さんに子供見てもらっててよ!と社員に言っていた記憶が蘇りました。
自分が実体験としてへとへとになったので、男性社員にも育児休暇を取得してもらうようにしました。ちょうど社内で面談しているときに、すごく眠そうな目をした社員たちから「うちの奥さんが育児ノイローゼっぽいです」と相談を受ける件数が多かったころだったようにも思います。
結婚や子育てなどの家庭環境の変化が、仕事に大きく影響を及ぼすとわかりました。逆に家庭が円滑に回るようになれば職場でのパフォーマンスも上がり、好循環を生み出すのではと考え、育児休暇の取得推奨を積極的に取り組んでみました。
2人目のお子様が生まれたことで気付いたことを会社の福利厚生の整備に繋げていったのですね。
自分が体験し実感することで導入には至りましたが、もっと早くから実施できれば良かったと本当に反省しています。学んだり吸収しようと思えば、何からでも学べるとは思いますが、子育ては学ぶことが本当に多いです。
今の時代は、保育園では大人が小さな子供に対して一人の人間として尊重しながら関わっている姿を目にします。
2歳児の意見をちゃんと聞いて、受け止めて、こうした方が良かったんじゃないかとやんわり伝えていたりしていて、頭ごなしに注意したり、理由を説明しないことが少ないように感じます。私もそれを参考にして、人との関わり方を改めるきっかけになりました。
私生活での学びを、私個人では仕事に取り入れて実施するようになりましたが、今のような話を社員にしたり、コミュニケーションの工夫を研修に組み込んで実施したりまではまだできていません。
パワハラ防止法も施行されますが、人とのコミュニケーションの取り方はより勉強しなければならないと感じています。
方向性の共有という点で、現在は何か取り組みはされていますか。
情報の共有をもっと円滑にできるように取り組みました。社内向けのポータルサイトを立ち上げ、通達や就業規則など、共有事項や情報を全社員が見られるようにしています。
また、コロナで計画の発表会も中止になってしまいました。年に一回ではなく、もう少し頻繁に、もっと軽い内容で考えていることを社員に伝えられないかと思い、専務のブログも立ち上げてもらいました。
月に二回くらいのペースで真面目なことや、くだらないプライベートの趣味のことなどを載せてます。あっ、以外と専務ってこんな感じの人なんだなと親しみを持ってもらえればと思っています。
澤野裕次郎/株式会社八号線 代表取締役専務。大学卒業後に銀行へ就職。2011年に起きた東日本大震災を機に父が運営する同社に入社。2017年、代表取締役専務に就任。
人が集まって方針発表や事業計画の発表ができないところを、社内ポータルサイトが補っているのですね。社内でのコミュニケーションの様子も変わりましたか。
やり取りが非常に活発になりました。チーフまで全員に個人のメールアドレスを配布し、グーグルの機能を活用し各人でチャットができるようにもなりました。ズーム会議も可能になり、印刷物や移動による交通費、時間も大幅に削減できました。
とても素晴らしい取り組みですね。
人事評価制度も再構築し、今は毎月一回、上司は部下と必ず面談を行っています。期初に掲げた目標の進捗や、最近の身の回りの変化や悩みなどを聞く機会を必ず設けるようにしました。
上司、部下の関係にも変化が生まれているのですね。
今は必ず行うように義務付けていますから、面談が本当にうまくいっているかはわかりません。
上司部下の相性もありますし、どこまで心を開いて話し合いができているのかはわかりません。まだまだ改善すべきところはあると思います。それでも以前に比べれば特段に良くなっています。また、当社は社長も半年に1回全社員と面談するようにしています。
それは相当な時間がかかるのではないですか。
時間はかかりますが、社長も楽しんでいるようです。「おい!あの社員去年と比べてすごくよくなったぞ!驚きだ!」と面談後に嬉しそうなLINEが来たりします。
まずは人事評価決定後、社員が支店長から評価のフィードバックを受けます。その評価に納得したか、ちゃんとフィードバックしてもらえたかの感想を社員が直接社長に封書で送る仕組みをとっています。
なかには「この評価には納得いかない」という内容のメッセージあるようですが、それも社長にだけ届くようになっています。それが届いた後に社長は面談に回るんです。
評価の決定は、評価調整会議というものを実施しています。これは評価者が集まり、各上司は部下のプレゼンを、他の参加者はそれに対してA評価かB評価かといった決を採ります。
最終決定は社長と専務が決定します。これを全社員分行う会議です。だいたい3日間缶詰になります。そこで出た評価の内容を、支店長が被評価者に伝え、さらにその感想を被評価者が社長に伝えるという仕組みです。
そこまでやっている会社はなかなかないですね。意見が分かれる場面などもありますか。
遅くまで残業している人を見て、こんな時間まで仕事をして責任感ある人だと思う人と、こんな時間まで仕事が終わらない効率が悪い人だと思う人などがいます。
同じ事柄でも背景が違うだけで見え方が変わります。部下が同条件下で同じ行動をとった際、評価者が異なる上司であっても、同じような評価になるようにはしていきたいと思っています。揃えられるように評価者研修などを行ったりしていますが、なかなか難しいですね。
また当然自分の部下がかわいいですから、他店舗の社員よりも自分の部下を良く評価してもらいたい。そうなると他店舗の人の取り組みに対していろんな質問が飛び交います。2019年からこの評価体制を始めましたが、これを半年に一回行っています。
これを半年に一回という頻度は非常にハードですね。
支店長も日頃から部下のことを見ていないと評価の際にプレゼンもできないし、他店舗の評価者からの質問に返答できないので、普段から部下との関わり方は密になりました。
ハードですが、上司と部下が関わる機会が増えましたので、この取り組みを活かして早く成長をしている人もいます。
給与を決めるための評価制度ととらえられる会社もありますが、やはり評価制度は社員の成長の為ですし、会社の業績を伸ばす事にも繋がりますよね。
この評価制度は、評価業務自体を賞与の金額を決めるためだけのものであったり、優秀だからA、普通だからBなどのレッテルを貼るだけのものにしないようにしています。
長い社会人生活の中で、半年に一度、方向性や業務の覚え、成長速度などの確認をし、上司と部下で考えをすり合わせる機会にしようとしています。
今までは支店長が提示してきた評価を追認して判子を押して評価業務を終えていた時もありました。この制度にしたことで、評価は業務という意識よりも、育成のための手段として捉えられるようになりました。
それでも評価に納得がいかない社員も出てきますので、こちらもそういった方に対して真摯に対応できるだけの評価理由を用意しておかないと、最終的に納得はしてもらえません。まだまだ改善しなければならない課題があるので、人事制度は試行錯誤の連続です。
今の形もゴールではないということでしょうか。
改善しなければならない課題がどんどん出てきます。ゴールには程遠いですし、ゴールは無いようにも感じます。より良い人事制度に向けて改善をしていくのは大変ですが楽しいです。ただ、変えることが目的にならないようには気を付けています。
最近は新しい研修はやりましたか。
ハラスメント研修や、会計の研修などを実施しました。対面ではできなかったので、zoomを用いたオンライン形式です。
動画を撮影しておいて、各人に見てもらうといった情報共有も行いました。他には、G&Eビジネススクール社のテストを全社員で受講してみました。フィールズさんの話を聞き、触発されて思い切って受けてみたんですが、初年度ということもあり、結果はなかなか厳しいものがありました。何となく雰囲気だけで掴んでいて、実際にはよくわかっていなかった箇所が浮き彫りになりました。
その後、社内で追試を作成し、再度追試対策期間を設けてみました。初回から高得点を取っていた支店長たちが自主的に同じ店舗の部下に勉強会を開いたり、先輩スタッフが後輩と一緒に勉強をしている姿が印象的でした。
車通勤の際に業界知識のYouTubeを聞きながら出退勤している猛者もいました。その努力もあり、追試の平均点は大幅に上昇しました。何よりも、会社の提案した取り組みに対し、そこまで真摯に対応し、受講してくれたことが嬉しかったです。高得点者には表彰をしたりボールペンを景品として渡したりしましたが、喜んでくれていたようです。今でもスーツの胸にそのボールペンをさしている姿を見かけます。
人材育成の取り組みを進めているのですね。
遊技機選定は営業部長と私が行くようになりましたので、今まで支店長が使っていた遊技台選定の時間を、人材教育の時間に回してもらえるようになりました。
すべての店舗でそのような意識がベースにあると、どの店舗に新卒が入っても大丈夫ですね。
受入れの体制も含めて、採用活動の延長線上にはその社員が定着するような取り組みもしなければなりません。辞めてしまった人がいたら、なぜ辞めてしまったのか、もっとこうしていれば辞めなかったのか原因を探し改善しなければどんどん社員は減っていきます。
「最近の若い者は根性がないからすぐ辞める!」といった話も出てきますが、一方で「最近の社会の変化についてこれていないガラパゴス化した社内文化」があったとしたら、改善すべきは自分たちだと思います。
これは新入社員に限らず既存社員に対しても言えることで見限られないように気を付けなくてはなりません。
採用活動をしていて思いますが、社内の状況は悪いのに、都合のいい事だけ伝えて自社を良く見せようとしても、相手が中身を見たときには失望するだけです。
中身から改善を始めなければ実際に行っている取り組みを外に伝えることはできないと思います。
中身の改善は、何かきっかけを設けないと一歩踏み出せないですよね。「新卒採用始めるからさ」と、それを言い訳にしてしまっても構わないと思います。まずは新しく取り組んでみることが大事だと思います。
最後になりますが、澤野専務の考える5年後、10年後のビジョンをおしえてください。
5年後、10年後を考えると、おそらく私が社長になっているころですね。自分が今年で35歳、社長が65歳。周りの方からは社長はまだまだお若いですね!と言われても一般的には定年退職の年齢です。
70歳、75歳になっても社長に頼り切っているようでは、親に甘えすぎなのではないかと思ったりします。とはいえ、ちゃんと任せてもらえるように自分自身レベルアップをし、社長のバトンを渡しても大丈夫だ、と思ってもらわない限り引き継がせてもらえないと思いますけどね。
その時に成し遂げたいことは、新潟県内、県外も含め出店して事業を拡大していくことはもちろんですが、それ以外にも楽しいアミューズメント施設を増やしたいですね。
昨今、仕事で精神的な苦しさを感じている人も多いと思います。そのような中で、自分たちの取り組みでそんな人たちを少しでも楽にしたい。ストレスを発散する場を提供したいという気持ちが強いです。
株式会社八号線で働く社員に対しても考え方は同じです。真剣に前向きに働ける人を増やしたい。それが実現できる職場環境にしたいと思っています。自分自身も楽しく働ける職場が良いので、そういう風にポジティブな考え方が持てる人が増えていけばいいなと思います。
社内外問わず、楽しさを追求していくのですね。
そうですね。理念にも「遊び心を満たす」と書いてありますし、私たちはサービス業ですから。また、接客以外にも能力開発をしたいですね。バックヤードでの業務の効率化や拡張、深掘りはまだまだやれることがあると思います。
新卒採用に取り組むまで、パチンコ業界はとにかく高い給与を提示しないと人が来ないと思っていました。新卒採用を機に、この業界のやりがいについて目を向けて、きちんと魅力を打ち出していきたいですね。
この会社には未来があると実感できる会社にしたい。もっと、この会社があって良かったと思われる会社、社会や地域の方々に必要とされる会社にしたいです。
実は最近、オフィスを移転しまして、建物の一角をお借りしています。
その建物では他業種の方も一緒に入居しているので、ホールのバックヤードでは見れなかった光景や、出会いなどがあります。日々その人たちとの交流の中で刺激をもらっています。
将来的にはそういった方たちともいろんなコラボができれば楽しいですね。これからどんな展開を広げることができるか、とても楽しみです。
本日はありがとうございました。
―インタビューを終えて
社長、専務をはじめ、幹部の皆さんが社員一人ひとりを想い、向き合っていらっしゃるんだなということをとても強く感じました。それが社内だけではなく、学生にもしっかり伝わり、8名の入社承諾というところに繋がっているのだと思います。
今後さらなる福利厚生の充実、教育制度の整備などにも取り組まれていくということでしたので、益々企業の魅力が増していく八号線さんに期待です!
(インタビュアー米谷)