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株式会社八号線、澤野裕次郎専務 TOPから学ぶ 前編

新潟県にDELZE!BIGSITE(デルゼビッグサイト)の屋号で6店舗運営している株式会社八号線の澤野裕次郎専務のインタビューです。前編では前回の2018年のTOPインタビューでお話していた社内改革について改めてお伺いしました。

前回は2018年にインタビューをさせて頂きました。当時は専務に就任して、新しい理念の制定、福利厚生の整備を進め、社員のプライベートの充実を目指して年間休日数を増やすなど様々な社内改革を行っていました。

2022年になり、取り組みやビジョンなど、改めてお伺いしたいと思います。

2018年以降の取り組みを振り返ると、旧基準機の撤去問題と新型コロナウイルスへの対応の2点が大きな課題として出てきました。

機械台の撤去期限が迫り、その入替期間に新型コロナウイルスがまん延、撤去期限の延長、第二波の到来と、これらの対応に明け暮れ、残念ながら出店や改装はできませんでした。

新しい企業理念は浸透しましたか。

前回のインタビューでもお話しましたが、当時は新規事業立ち上げを積極的に考えていました。

ですので、パチンコ事業以外の取り組みをしたとしてもすっぽり収まるような幅広い捉え方のできる理念を作りました。今は毎朝各店舗で理念の唱和をしてもらっているので、理念のキーワード自体は覚えてもらえたと思います。

ですが、その内容について成り立ちから詳細に理解してもらったり、常日頃から行動として実践できているかと言われると、まだまだ浸透しきっていないと感じます。

理念を普段の仕事に結びつけるのは、なかなか難しいですよね。

私自身も、自分が作ったにも関わらずできてないと感じることが多々あります。

お客様の楽しみよりも自社の目先の利益が優先されたりですね。理念を見るたびに、日々叱られているような感覚があります。

新しい理念を制定して比較的すぐにコロナ禍になり、思ったように進まなかった部分もありますか。

そうですね。『私たちは、お客様の遊び心を満たす、心より楽しめる空間と時間を提供します。』という理念を作りました。

しかし、コロナ対策をしたときにお客様が本当に楽しんでもらえる取り組みは出来ていただろうか?と感じる場面が多かったです。

感染症対策のために、話しかけることも控え、消毒作業に手を取られていました。楽しさよりも先に安全面が優先されましたが、その中でもお客様に楽しんでいただけることをもっと追求できなかったのかという反省があります。

理念の実践がもっと出来たのではないかと感じているのですね。

「遊び心を満たす空間と時間」といっても、お客様は出玉や楽しさだけを目的にパチンコホールに来ているわけではないと思うようになりました。

当然、勝った方が嬉しいですし、勝つことを期待してお店に来店されます。一方で、その中でも日常でストレスが溜まり、一歩離れて、頭の中をからっぽにし、リフレッシュするような「癒し」を求めている方もいらっしゃるということを強く実感したのがこのコロナ禍の期間でした。

癒しにも焦点を当てた時に、どんな取り組みができるのかというのは、今まで以上に考えていきたい部分です。

理念作成時は、出玉や楽しさだけがパチンコホールの存在意義ではないというものを感じてはいたものの、あえて理念には組み込まずにいました。視野が狭かったと反省しています。

あえて言わなかったのはどうしてでしょうか。

社内では癒しの側面もあるっていう意見も出たんですが、取り組みの中心に来るべき考え方ではないと思っていました。

それよりもまずは出玉や楽しいハッピーな空間でしょうと。大当たりを当てて、興奮の空間だ!というのがパチンコホールの役割だと思ったからです。

癒しを考えの中心に持ってきてしまうと、「おっしゃ!高設定入れて集客するぞ!」みたいな意気込みも無くなるような気がしますし、営業の姿勢にも影響が出ると思い表現を避けました。

癒しを求めるのであればカフェやマッサージでもいいじゃないかと。パチンコホールはカフェではないだろうと思うと、癒しの空間という表現は違和感を覚えました。

このコロナ禍で、不要不急の外出禁止と言われている中で、大勢のお客様がご来店して遊技していただけました。来店していただけるのは嬉しいですが、遊技は不要不急の外出に当てはまらないのか、と複雑な心境でもありました。

お客様にも様々な事情があり、どうしても遊技しなければやっていられないような事情があったのでしょう。そう考えると、パチンコホールには、そんな地域のお客様のメンタルを支えるような役目があることに気づいたんです。

そのようなことを考えたことをきっかけに、職場で仕事をするという空間と時間も、楽しいものにできないかと考えました。これは働きたくても働けない方や、今の職場で困っている人などに対してです。そんな人たちにとって職場で働くことが癒しにできないか、と考えるようになりました。

 

澤野裕次郎/株式会社八号線 代表取締役専務。大学卒業後に銀行へ就職。2011年に起きた東日本大震災を機に父が運営する同社に入社。2017年、代表取締役専務に就任。

 

柱となるような新規事業の取り組みは、今もされているのですか。

それは以前からの課題なんですが、この情勢下もあり、歯がゆいことになかなか実現できていません。難しく考えすぎていて二の足を踏んでいるのかもしれません。

新規参入はなかなか難しい面もありますが、多角経営で飲食店運営なども多い印象があります。

実際、当社も飲食店を店舗の敷地内にオープンしたのですが、オープンして一年半後くらいにコロナの第一波が来ました。

その後パチンコホールに休業要請が来たタイミングで閉店を決めました。当時はいつまでコロナが続くのかもわからなかったので、苦渋の決断でした。

現在の状況での新規事業は非常に大変ですね。

遊技機の入替で投資がかさみ、コロナも落ち着かない中で一歩を踏み出すのはなかなか難しいです。

一方で他業種から見たパチンコホールの強みやノウハウは何だろうと考えるようになりました。今持っている自分たちの遊休資産を活用し、パチンコ以外にも転用するとどんなことができるんだろうと模索しています。

パチンコ業界の中に長くいると気づかない点が多くあり、自分たちの常識が他業界での非常識や非効率的に思える部分が多々あるんだと思います。

パチンコ業界のノウハウはどうしても広く知られているものでもありませんし、知識の共有も閉鎖的に感じます。だからこそ他業界から転職してきた方などに、他業界のノウハウでパチンコ業界に転用できるものがないか積極的に取り入れるべきだと考えています。

一方で、自分たちが当たり前に考え、取り組んでいるものが、他業界から見たら心から羨ましく思うようなものも存在しているんだ思います。

この業界・企業に入った時からあるのでありがたみを感じなくなっていますが、そういった自分たちが大事にすべきノウハウを他業種にも転用できればより知識や経験の深堀になるのではないかと考えています。

現在、そういった新規事業を考えるのはどういった方々なのでしょうか。

以前は私と社長だけでした。最近は会議の体制も大きく変わり、営業部長や総務部長など、幹部が出席するような会議の中でもそういう話をする機会が増えました。なかなか現場の人たちまで巻き込める段階まで進められていません。

新規事業については、やはり多くの企業様が頭を悩ませています。「こういう時こそパチンコ一本でやっていこう」という企業様や、逆に「こういう時だからこそ新規事業をやっていかないと」という企業様もいらっしゃいます。

迷いますよね。企業の稼ぎを一本の柱だけに頼っていると、いざというときにリスクヘッジができません。パチンコ業界も成熟し、縮小している業界ですので、新たな稼げる柱を構えたほうが良いとも思います。

だけど、そのような状況だからこそやっぱりパチンコから逃げちゃいけないと思うんです。パチンコの事業をより良くするために、新規事業ができないか。

今のパチンコ業界のノウハウの良さに気付くためにも、人材を含めた、持っている資産を有効活用できないか、人や土地、建物、資金を活用して新たなものを立ち上げできないかなと、常に考えています。

新しいことをするにしても、シナジーを感じるものですね。

パチンコが一番の事業ですし、そこの事業拡大や改善はこれからも継続していきます。しかしそこだけの収益に頼っているとまたコロナのような外出自粛のような事態になった際に事業が立ちいかなくなるリスクがあります。

そんな時にリスクを分散してくれるような事業体を作っていければと思います。またそのノウハウがパチンコと還流できるとより良いですね。

新規出店やM&Aについては、考えていますか。

考えています。何件かM&Aの話はきましたが、これだ!と自信をもって進められるものとは出会えませんでした。

それでも出店については継続して探していきたいです。それと同時に、既存店にもまだまだ改善の余地というか、解決すべき課題が山積みのようにも感じています。あまり焦らず、ひとつひとつ取り組んでいきたいと思います。

新潟県のみならず県外にも出店は考えていますか。

ゆくゆくはそうしたいですね。遠隔地の管理の問題はありますが、県内だけの商圏で商売を完結させていいのかと考えると、外に出てみたいという好奇心はあります。

最近音楽のサブスクや、映画やアニメのサブスクにコロナ禍を機に加入してみました。月額1,000円ほどで充実したサービスを受けられて満足しています。残念なのはこのサービスが日本発でなかったことです。

日本発で日本人向けに考えていたから月額料金の設定が高かったのではないか。全世界向けに実施をしているから、充実したサービスであるのに、比較的手軽な料金で提供できたのではないか、と考えています。となると、身近な商圏だけで自分の考え方などを完結してしまうと、外からもっと大きなサービスが来たときに、あっという間に顧客を奪われてしまうのではないかという怖さがあります。

とはいえ、まずは県内の基盤を盤石な状態にしないとです。どっちつかずになって共倒れになってしまっては元も子もないですからね。

澤野専務は現在、どのような仕事を中心に行っているのですか。

前回のインタビュー時は財務、人事、理念作成など総務関係や経営の根幹部分の考えの整理みたいなことを中心に行っていました。

それから撤去期限が迫ってきたこともあり、機種選定を中心に行うようにシフトしました。並行して人事制度の改変や、就業規則の改訂などを取り組んでいました。

その後コロナになってからはコロナ対応と対策が中心です。社労士の方と雇用維持や助成金についての相談。

政府系金融機関との交渉、店休のスケジュールを組んだり、マスクをベトナムの友人から仕入れたり、パーマ液を製造している方から消毒ジェルをいただいたり、社員向けにマスクを配布したり社販したり、一時手当金を支給したりといろんな取り組みを行っていました。

その合間に機種選定もしていて、納期も製造台数も変わるもんですから、もう混乱しながら無我夢中になって仕事していました。

ここ数年はやはり守りを固めていたのですね。

新型コロナ発生当時は中国で風邪が流行ってるんだってさーくらいにしか思っていませんでした。

日本で感染拡大した後も、周りの方の声を聞くと、十分な対策を取る方半分、ただの風邪だよという方半分だったように感じました。

運よくお世話になっている方から、この病気が万が一パンデミックになる可能性を考え、備えをしたほうが良いとアドバイスをされ、念のため対策を取ろうと、早めに動いたことを覚えています。

パチンコ業界には休業要請が出て、ほぼ全国の店舗がGW含む20日近く店休せざるを得ませんでした。稼ぎ時の1か月近くの売上が0円なのは本当に厳しかったです。

自社でクラスターが起きた際、再度また売上0円の期間が発生し、お客様との店舗のイメージの問題にも繋がると思うと、本当に恐ろしくて、守りをガチガチに固めていました。

例えばどのような取り組みを行っていたのですか?

全社員には、県外往来や飲み会や外食の自粛などの行動制限をお願いしていました。

また先ほどのような、海外からでもいいのでマスクの確保と配布をしたり、手指消毒とうがいの徹底、検温の実施などできることから実施をしました。企業ロゴを入れた布マスクを作り配布をしていたりもしました。

お客様にもマスク着用の徹底をお願いしました。着用していない方には玉やメダルで交換してもらい、着用をお願いしたりもしていました。

その後、自動検温器を導入したり、微熱が出た人には全員会社負担でPCR検査を受けてもらってから復帰をお願いしたり。かかりつけの内科の先生にアドバイスをもらい、日本産業衛生学会から出ている、「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド」という医者の先生も参考にしているガイドラインから、社内のコロナ対策ガイドを作って実施をしたりといろんな事をしていましたね。

 

 

御社では新しい取り組みとして、新卒採用を行っていますが、元々新卒採用をしたいと思っていたのですか。

実は10年くらい前に2年ほど新卒採用をしていました。私がちょうど八号線に入社したときですね。なかなか採用もうまくいかなかったようです。

初年度が2名、次の年が1名で、採用活動期間の忙しさの割に人数が確保できなかったようで、その翌年には新卒採用を止め、中途採用メインに切り替わっていました。

再び新卒採用を始めたのはなぜですか。

弊社の社員の構成だと40代が非常に多く、20代が少ないです。それは先ほどの新卒採用をしてこなかったことが原因です。

若い学生が入社しなければ、少子高齢化みたいな状況になり、高齢化と一斉定年退職が迫ってくるという危機感がありました。また、若い人が入りたいと思う会社でなければ、会社の未来は明るくないだろうなと思ったからです。

それなら、学生たちが入社したいと思えるような就業条件に、社内の環境を変えてしまおうと一念発起して取り組みを始めてみました。

当時のカウンターで働いていた女性スタッフの佐藤さんと、店舗の店長をしていた外山さんにお願いして、新卒採用に向けた取り組みを実施してもらいました。

その結果、10年ぶりの新卒採用、かつコロナ禍で合同説明会もあまり参加できず初めてのweb説明会と面接などがある中で21卒は1名入社、今年の22年卒は8名の入社が決まっています。本当に考えられないくらいすごい実績を出してくれました。

大幅に増えたのですね。

本当に人事の2人の取り組みのおかげです。アルバイトの採用面接も2名が兼ねていて、入社後のアルバイトの女性に、「佐藤さんにはどこに行ったら会えるんですか?」と店舗の方が聞かれることもあったそうです。ファンになってもらえるような魅力があるんでしょうね。

今後は採用活動に伴う、福利厚生や働きやすさの改善だけではなく、この仕事の楽しさとかやりがいをもっと前面に強く打ち出していきたいです。

外から見たパチンコ業界のイメージを自分たちが勝手に作り、残業がないとか今はタバコ臭くないとか、そういった昔と違うから安心してくださいといったマイナスイメージの払しょくを中心に打ち出してきました。

今後はアピールポイントをもっと変えていければと思います。新卒採用を通じた気づきは、本当にたくさんあります。

具体的には、どのような気付きがあったのでしょうか。

一番予想外だったのは、自社との採用上の競合相手です。てっきり県内同業の他法人が競合相手だと思い、そこばかりを意識していました。

22卒採用は、序盤に5名の内定を出すことができ、その後4名内定辞退を受けました。その辞退者にどこに就職するのかと聞いたところ、県内の大手スーパーマーケットや、関東のスーパーマーケット、100円ショップなど、同業者ではなかったんです。

なので業界内だけに絞った狭い視野で見るべきではないと気づいた出来事でした。先ほどのサブスクの話とも共通しています。ですから同業他社と福利厚生で競争するのではなく、他業種と比較してパチンコ業界のやりがいをもっと伝えなければならないと実感しました。

新卒の採用活動を行う上で更に福利厚生の整備をして、就業規則の改革も行ったと聞きました。

公休日数の増加は前回のインタビューの際も取り組んでいました。その時は年間の休みが96日でしたが、そこから105日まで引き上げました。もう一段階上げたいとは考えています。

就業規則や賃金規程など社労士の先生の指導の下、全て刷新しました。また、人事制度の改定や定期昇給の制度も作り、賞与の仕組みも改善したりしました。

新卒採用を始めたことによって、人事制度や就業規則のターゲットが、社内のスタッフだけでなく、外部にいる学生も含めて考えるようになりました。

職場環境の改善は、結果的には新卒採用をきっかけに、えいや!と踏み出すことができました。

まずは始めることで整えることが出来るのですね。新卒採用を始めて、特別印象に残ったことはありますか。

今回の内定者の人数を見て思ったのは、意外と今の学生たちは皆パチンコホールに好意的だということが驚きでした。

店舗見学をしてもらう機会があり、その時は送り迎えをして下さる親御さんともご挨拶するのですが、その時の反応も怪しんだり警戒しているわけでもなく、親子ともご対応が非常に丁寧だったんです。

この業界はご両親などの世代から、就職に対しての同意が得られにくいと考えていましたが、それは自分たちが勝手に作り出していたコンプレックスだったのかもしれないと感じ、考えを改めました。好意的に思ってくださる方が多いのは本当に嬉しいですね。

もしかしたら若者のパチンコ離れも、自分たちの思い込みに原因があるのではないかと思うようになりました。若者のパチンコ離れではなく、パチンコ業界が自ら一般社会から離れディープな世界に行ってしまったのではないかと。

やっぱり自分たちの業界主体で考えてしまい、相手を中心に考えられなくなっているという、反省があります。

新卒の採用活動において、デジタルネイティブ世代であり、無料でスマホゲームをし、SNSのDMで連絡を取り合うような、「今どきの学生」が入社してくれるにはどうすればいいのかと考えたからこそ、そのようなことにも気づけました。

 

後編へ続く